「支援現場のリアリティと「客観性の落とし穴」」~大阪大学村上靖彦先生をお招きして~
NPO推進北海道会議 特別セミナー
「支援現場のリアリティと「客観性の落とし穴」」~大阪大学村上靖彦先生をお招きして~
NPO推進北海道会議では、2023年から理論と実践を往還する共同研究会を開始し、初回は2023年10月29日に「NPOは何を変えてきたか: 市民社会への道のり」(有信堂高文社、2020年)の著者である川崎あやさんを招き、「いま、「市民社会への道のり」は可視化できるか」 と題して、NPO法成立以降からの市民社会について考えました。
NPOの現場で感じることと、説明できることのギャップに戸惑ったり、もどかしい思いをしているという方、一緒に考えてみませんか?
●日時/2024年6月7日金曜日16:30~18:00
●場所/市民活動プラザ星園 2F 活動室
●参加無料、定員50人
●お申し込み /https://tinyurl.com/296nfejz
●講師紹介/村上 靖彦(むらかみ・やすひこ)氏:
1970年、東京都生まれ。基礎精神病理学・精神分析学博士(パリ第七大学)。現在、大阪大学大学院人間科学研究科教授・感染症総合教育研究拠点CiDER兼任教員。専門は現象学的な質的研究。著書に本文に紹介した2冊の他『ケアとは何か』(中公新書)、『子どもたちのつくる町』(世界思想社)、『在宅無限大』(医学書院)、『交わらないリズム』(青土社)などがある。
●お問合せ・お申し込み/NPO推進北海道会議
メール info@hnposc.net
http://npo-suisin.dosanko.org/
★村上靖彦先生より、本セミナーについてレジメをいただきました。
「15年来の私の研究は、おもに医療福祉現場でインタビューを行い、語りを一人ひとり丁寧に分析する作業を行ってきた。「現象学的な質的研究」と名付けられるこの技法は、語り手の経験や実践の動きの内側に視点を取り、経験・実践のスタイルを取り出すとともにその背景に横たわる社会構造を照らし出すことを目的としていた。
とくに2014年から調査を行ってきた大阪市西成区においては、『母親の孤独から回復する 虐待のグループワーク実践に学ぶ』(2017)、『子どもたちがつくる町 大阪・西成の子育て支援』(2019)、『「ヤングケアラー」とは誰か』(2021)を通して、子ども子育て支援の対人援助職、そしてヤングケアラーを経験した人たち、虐待に追い込まれた母親たちといった人たちに取材し、それぞれの経験が持つ個別の重みを描くと同時に、(行政からなかば独立するように)ボトムアップでコミュニティがどのように自発的な生成をしてきたのかを分析してきた。
これらの研究は、個別の実践・経験にこだわることの重要性を意識したものである。数値と対比される経験のリアリティについて拙著『客観性の落とし穴』で論じた。
数値による判断のみが重要であると考え、個人の経験を「お気持ち」として批判する人がいる。もしかすると経験にもとづく判断は、心許ないものだと考えているのかもしれない。
しかし客観的な数値と個人の経験は異なる次元の出来事であり、異なる真理をもつ。
客観性がもたらす正しさとは別の、一人ひとりの経験がもつリアリティに属する真実がある。ケアの現場のように個別で偶然生じる経験や文脈が重要な意味をもつ場合、数値的なデータにのみ頼ると大事なものが抜け落ちてしまう。」
●研究会メンバー
田口 晃:NPO推進北海道会議理事。北海道大学名誉教授。著書は、『西欧都市の政治史――都市政治の可能性を求めて』(放送大学教育振興会, 1997年)『ヨーロッパ政治史――冷戦からEUへ』(放送大学教育振興会, 2001年)『ウィーン――都市の近代』(岩波書店[岩波新書], 2008年)
ほかに角、広田まゆみ、佐藤隆各氏が研究会メンバーです。