2017-04-14

報告 シンポジウム「ソーシャル・インパクト・ボンドと新しいまちづくりの可能性」

基調講演 小林立明氏
2017年3月25日14時より、市民活動プラザ星園大会議室において、シンポジウム「ソーシャル・インパクト・ボンドと新しいまちづくり」を参加者約40人で開催しました。小林立明氏(ソーシャル・ファイナンス研究会代表)の基調講演「海外におけるSIBの発展と日本版SIBの可能性」においては、SIBの基礎知識として「社会的インパクト債(SIB)とは人々の生活を測定可能な形で改善する効果的な社会事業に対し、資源投入を促進する官民連携枠組みである」ということを確認したのち、SIBの仕組みと海外および日本の事例、そして北海道での導入において検討すべき論点として、「取り組むべき社会課題、財源、担い手、多様な資金調達手段の中でSIBに固執するべきか否か」を提示していただきました。
パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、小林立明氏(ソーシャル・ファイナンス研究会代表)、田口晃氏(NPO推進北海道会議代表理事)、河西邦人氏(札幌学院大学経営学部教授)、小野晋氏(日本政策金融公庫)をパネリストに、NPO推進北海道会議の佐藤隆がコーディネーターを務め、基調講演を受ける形で議論を行いました。
SIBを取り巻く環境については、「投資型クラウドファンディングの高い伸び率は、SIBを含めた社会的投資の広がりを示唆する(河西氏)」「ソーシャルセクターに関して言えば、ものすごい金額が流入しており資金的には心配していない。むしろNPOを含めたソーシャルセクターが、社会的インパクトを生むビジネスモデルを提示してきちんと受け止めることができるか(小林氏)」という意見が述べられました。またSIBにおいて重要な要素である成果指標については、「PFIでも行政が仕様を決めているが、SIBの事例では、事業者側や市民投資家側が意見を言える。社会の中のガバナンスにおいて、市民やNPOがどのような社会的インパクトを望むのか、それを行政側に言える機会となるかもしれない(河西氏)」「社会的成果の指標化は、やり方次第では、自画自賛にとどまる。第3者をまじえた成果指標づくりが重要だ(田口氏)」さらに「指標は数値だけにとどまるのではなく、対象者のQOLや幸福感を指標化する取り組みもある(小林氏)「資金の出し手としての金融機関の立場からすると、軸は評価指標ということになるが、事業体の経営的体力も見ることになる(小野氏)」などの意見があり社会のガバナンスが一つのキーワードとなりました。
会場の行政職員からは「検討する意義は大いにあると思うが、評価の厳密さや成果重視の姿勢が事業内容に及ぼす影響など細かいところが気になる」地方議会議員からは「SIBは議会で2回ほど取り上げられた。札幌市は政令市の中で2番目に生活保護が多い。分野については検討する必要があるが、パイロット的に試行することができないかと思う」という感想が寄せられました。NPOはSIBの流れに対してどうするべきかという問いかけに対して、NPO推進会議の佐藤事務局長は「社会のガバナンスに関わる新しい流れであり、積極的にかかわっていくべき」と述べられ、小林氏は「金銭的にだけ考えると、休眠預金活用と比べてもSIBはそれほど魅力とはいえない。お金が欲しいだけなら他の手段を考えたほうがよい。しかし、行政自身が行政コスト削減への意思・イデオロギーを背景として成果連動型の導入を望んでいる。その際にNPO、市民社会はルールづくりにおいて主張すべきことを主張しないとならない。そのような意味では、SIBに関わっていくことには意義があると思う」と述べられました。
今後の展望として、パネリスト各氏から「融資にこだわるつもりはないので、NPO等のみなさんと社会課題への取り組みをやっていきたい(小野氏)」「SIBが浸透すれば、手弁当でやっていたことが、行政からお金をもらえる可能性がある。一方で成果を出さなければならないという責任も生じるが、チャレンジしてほしい(河西氏)」「北海道でNPOを広げようとしたころ、市民社会の発展を予想していたが、思った通りだったと思う。今は社会のつながりかたが複雑化しているなと思う。行政と市民社会は協力かつ競合関係、時にはしんどいこともあるが乗り切ってほしい(田口氏)」「ソーシャルファイナンスは最終的にはローカルファイナンスなのではないか。ローカルの中で税金、寄付であったり、資金を循環させる仕組みをつくる。グローバル金融機関がやっているものだけでなく、北海道のような地域でローカルファイナンスの循環モデルができればと思う(小林氏)」という言葉をいただきました。

2017-04-10

寄稿のご紹介

北海道NPOサポートセンター事務局長の佐藤隆さんの寄稿をご紹介します。

こちらをご覧ください。

ソーシャル・インパクト・ボンド研究会 まとめと展望

研究会座長 田口 晃(NPO推進北海道会議代表理事)

20世紀末から世界中で社会全体の運営が政治社会(政府、行政)、経済社会(企業、小経営)、市民社会(NPO)の三つ巴で行われるようになり、共同と競合がさまざまな形で展開している。政治社会即ち政府・行政は財政難と行政ニーズの多様化にどう対処するか、頭を悩ませている。経済社会では「限界コストゼロ社会」(J.Rifkin)の傾向の中、カネ余り低収益を背景に金融商品の多様化など資金調達の方法の開発が著しい。そこに金銭リターンに加えて社会的リターンにも関心を持つ投資家層もあらわれてきた。また市民社会では様々な社会活動も資金難を解消するために、活動を広く理解してもらう手法として成果の客観化を試みてきた。つまり3社会の間のお金のまわり方にも種々工夫が凝らされてきたのである。

そうした中で、今回我々が研究テーマとして取り上げたのはSIB(Social Impact Bond)「社会的インパクト投資」という技法とそれにまつわる様々なアイディアであった。これは、イギリス、アメリカ発のアイディアで、非営利市民の社会活動に対し、政府・行政が中間に立って民間資金を調達する手法のひとつである。初期1980年代のPFIという民間資金活用法と比べ、「社会的インパクト」(活動のもたらす社会的効果、それを様々な方法や基準でできるだけ客観化する)を指標として打ち出している点で、投資家、行政双方にアピールし、市民活動グループにも活動の透明化・効率化をもたらすことが期待されている。
 
本研究会では、SIBとそれに関連する分野で、研究と活動を続けてこられた3人の講師を招いて、北海道で活動するNPOのうち、将来SIBと係わりそうな団体の代表(ホームレスの就労に携わる「ベトサダ」と児童の学習支援を行う「Kacotam」、ならびに「北海道NPOバンク」、「北のNPO基金」)それと金融機関(「日本政策金融公庫」、「北海道労働金庫」)の方々ならびに一般参加者」に対し講演をお願いし、討議に加わっていただいた。
そこで以下の点が明らかになった。まず実態である。2013年以来イギリス発で「社会的インパクト投資」が世界に広まりつつあり(ただし、アングロサクソン圏それとオランダに多い)、日本でも2014年以降政府が動き出している。対象分野は貧困家庭支援、再犯防止、若者の教育・就労支援、などに集中している。「社会的インパクト投資」の一部であるSIBに関しては、非常に限られた事例にしか適用されていない(イギリスでも社会的資金と呼ばれる分野の1%にすぎない)。

日本では2015年以降、ヘルスケア、認知症予防、特別養子縁組推進、若者就労支援の分野でパイロット事業として「社会的インパクト投資」的な試みが始められ、その他SIB的なアイディアを利用した実験的な試みも各地で始まっている。さらに、経済産業省主導のもと、健康寿命延伸の分野で、成果連動型かつ複数年度契約による本格的SIBが複数自治体で近年中に導入される見込みとのことである。

ついで、問題点として、対象分野が非常に限定されること、行政コストの削減につながるか不確かであること、リスクを負う主体が曖昧であること、評価指標が複雑すぎることなどが指摘された。

確かに「社会的インパクト債」SIBだけを見るとそうした問題点は残る。しかし政治・行政、金融、非営利市民活動全体の関係を考える場合、資金利用の面でも「社会的インパクト」という捉え方に着目することはますます重要になるであろう。行政が税収減の中で市民・住民のニーズのますますの多様化に対応するためには、税以外に多様な資金利用の方法を考える必要が出てくるはずである。金融機関も融資対象拡大に向けて社会的投資というものを投資家に説明する必要は増すであろうし、種々の基金も社会的リターンを視野に入れることがますます重要になろう。NPOなどの非営利市民活動にとっては、活動内容を広く理解してもらうために、評価基準の客観化という社会的インパクトのアイディアは不可欠になってくる。そこに、北海道や札幌市等の行政側と金融機関、NPOが抱える三者三様の課題を、三者間で検討協議する機会を設ければ、「社会的インパクト」とそのための手法の開発をめぐって議論と実践が展開され、3社会にまたがる活動が生まれる。

その際、SIBという一つの枠組みにこだわるのではなく、様々な「社会的インパクト」的な枠組み、手法を種々の課題ごとに検討するのが生産的であろう。例えば、比較的成果指標になじみやすい予防医学の分野でも、必ずしも評価が易しくない孤独老人の見守り等を行うNPOに対し、行政がどのような評価基準を用いるのか、それを成果連動型助成にするとしたら、どのような金融手法と結びつけたらよいか、など検討し、試行すべき課題は私たちも周りに、いろいろ多い。そこに行政だけでなく、金融関係者と非営利市民活動が加わって事業を進めるようになれば、新たな地域活性化が引き起こされること、必定であろう。

(事務局より)
SIB研究会は3月末で第1期を終えますが、来年度第2期を開催する意向です。
お問合せは、NPO法人NPO推進北海道会議(TEL 011-200-0973 Mail info@hnposc.net)までお願いします。
※今年度は北海道新聞社会福祉振興基金の助成を受けて実施しました。